イギリスにおける農業的土地利用の変化

1 はじめに


 本稿は、過去30年間、イギリスにおいて農業的土地利用がどのような地域差をみせながら展開したのか、あとづけることを目的としている。これは、イギリスのカントリーサイドの特色を考察するための、基礎データを示すことでもある。

 農業は作物の栽培・家畜の飼養といった生産活動を行い、それに付随して伝統的な農村景観を形成してきた。イギリスの丘陵地に広がるムーア、ヒース、牧草地、耕作地、それを囲む生垣・石垣、川や湖は、多様な景観を特色づけてきた。

 しかし、イギリスの農業は第二次大戦後に大きく変化した。食糧自給率の向上と安価な食糧供給を目指して、農業経営の大規模化・専業化・集約化、そして農業技術の革新が進んだ。これらは、カントリーサイドの景観を変化させ、土壌侵食・水質汚染といった環境の悪化をもたらすようになった。かつては、都市の膨張がカントリーサイドにとって脅威と考えられたが、現在では農業の与える影響が重要なものとして取り上げられるようになっている。例えば、農業条件に恵まれた地域では、生垣の除去、湿地の干拓、ヒースの牧草地化が進み、山間の条件不利地域でも、ムーアが牧草地や針葉樹の植林地に変えられたりしている。こうしたなかで、環境保護やアメニティの観点からカントリーサイドの景観保全に関して議論が行われている。本稿では、その議論の前提となる農業的土地利用の変化の実態とその地域性を示したいと考える。

 なお、本稿では、イングランド・ウェールズ・スコットランドからなるグレート・ブリテンを慣用にしたがってイギリスとし、北アイルランドを含む場合には、連合王国と表記する。また、以下の図表作成に使用したデータの出典は、文末にまとめて掲載した。

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・『えりあぐんま第6号』(1999年)掲載
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