ヘレフォードのマッパ・ムンディ

 マッパ・ムンディとは、中世キリスト教社会における世界図の総称です。その極致ともいえるのがヘレフォード大聖堂に伝来するヘレフォード図(165×134cm)です。円形地図の中央に聖地エルサレムがあり、上部(東部)にはアジア、右下(西南部)にはアフリカ、左下(西北部)にはヨーロッパが占めています。いわゆる三分型のTOマップのなかに、現実の地名とともに、パラダイス、バベルの塔などの神話・伝説に基づく図像が描かれている地図です。
 ヘレフォードに入ると、マッパ・ムンディの街といった看板があって、今でもマッパ・ムンディが、この街を特徴づける要素になっていることがわかります。ヘレフォード大聖堂は旧市街の南部にあり、その立派な建物は歴史を感じさせます。      

  

 マッパ・ムンディは近年新築された図書館の建物に付属する部屋に展示されています。そこに至る通路にはパネル、コンピュータを使った案内があり、マッパ・ムンディのことを学ぶことができます。そして厳重な保管庫といった感じのところに、マッパ・ムンディは「鎮座」していました。照明が落としてあること、高い位置に掛けられていること、それに皮紙が微妙に波打っていることで、下部しか細部が見られませんでした。とはいえ、ブリテン島は左下に位置しているので、その周辺についてはゆっくり眺めることができます。

 それにしても1290年頃に描かれたという地図は欠損もなく保存状態がよいのに驚きました。たぶん全体に変色はしているのでしょうが、文字や図像は鮮明です。地図全体の独特の雰囲気はやっぱり本物を見ないと体感できなあと納得しました。
 マッパ・ムンディに対面したとき、700年の間、人々はどんな思いでこの地図を眺めたんだろうと思いました。作成当時はキリスト教社会における世界に関する百科事典、近代に入ると中世のグロテスクな地図といわれ、また今は当時の世界観を知ることのできる貴重な遺産との評価。とにかく展示室の静かな空間は忘れがたいものとなりました。

 大聖堂内の売店では、各種のガイド・ブック、写真版やトレース版(ラテン語・英語)のポスター、ポスト・カードなどを入手できます。
 大聖堂を出てからヘレフォードの街を歩きましたが、市街の中心ハイ・タウンにはハーフ・ティンバーの古い建物(1621年建造)があり、花で飾られていてとても素敵でした。その周辺は歩行者専用道路になっており、落ちついた街のたたずまいを楽しむことができます。

       


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