山田博文『これならわかる金融経済(第2版)ーグローバル時代の日本経済入門』大月書店、2005年12月、2000円。

以下は、「はじめに」、「目次」、「あとがき」の紹介である。

これならわかる金融経済(第2版)
―グローバル時代の日本経済入門ー

はじめに

 旧版から5年たった.第2版の本書は,その間の新しい変化を盛り込んで再構成し,テキストとして一層わかりやすさを追求し,イラストも挿入して出版する.旧版同様,メールなどによる読者諸賢の忌憚のないご意見やご要望を期待している.

 現代ほど,マネーが,経済や社会のためでなく,むしろマネー自身のために,自身がより大きく増殖するために,使用されるような時代があっただろうか.

 そもそも経済(economy)とは,eco-(家の)-nomy(管理),すなわち,家の切り盛りや暮らしを意味していた.マネーは,あたかも身体を流れる血液のように,国民経済や地域経済のすみずみにまで流れることで,モノづくりや暮らしを支えてきた,といってよい.

 だが,世紀末のバブルの時代,マネーは,より有利な利殖先をもとめて,経済やモノづくりの現場からはなれ,株式や土地の売買に向かい,その売買差益を追求した.世界に目をやると,巨大マネーが,より有利な利殖先をもとめ,国境を越えて,自由に移動している.地球をつつむコンピュータのネットワークは,飽くことなく自己増殖をくりかえす巨大マネーに,地球的な規模の運動と,ビジネスの舞台装置を提供している.

 はたして,いま時代が問いかけているのは,富の象徴としてのマネーを無制限に追い求めることだろうか.また金融産業にしても,マネーの効率的な自己増殖のノウハウやシステムを最優先させることなのだろうか.おそらく,そうではない.現代社会のニーズは,国民経済や地域経済の安定と発展に目を向け,安心できる暮らしの視点から,マネーや金融産業のあり方,金融経済システムや経済社会のあり方を解明することであるにちがいない.

 というのも、地球上では人類の40%にあたる25億人の人々が1日2ドル未満の生活を強いられ、先進国でも経済格差が拡大・固定化し、生活の不安や貧困問題が深刻化している。世界でも、日本国内でも、マネーが生活を豊かにするために使われているとはいえない。

 そのようなわけで,本書は,日々の身近なニュースや経済のしくみに焦点を当て,それらがよく理解できるように,必要とされる金融や経済の基礎知識を提供する( Part 1).さらに,そうした基礎知識を「死んだ知識」に閉じこめないで,「生きた知識」として躍動させ,さまざまな経済問題を自主的に解明できるように,主要なサンプルを提供する(Part 2).

 周知のように,わが国は,規模のうえでは,まぎれもなく経済大国であるが,市民生活の豊かさとなると,むしろ「生活大国」とはいえない事情があるようだ.改善されつつあるとはいえ,不透明で不公正と評価される日本型金融経済システムや経済社会のあり方は,先進国の一般的な基準からみて,多くの問題点も指摘されている.暮らしや経済の安定・充実となると,解決を急がれる問題点が山積しているようである.

 本書では,充実した市民生活や市場のルールをめぐる国際社会(欧米)のよき先行事例に学ぶことで,問題解決のあり方やその方向も検討する.さまざまな経済リスクに満ちた社会で暮らす現代人にとって,金融や経済についての見識を持つことは,安全で賢い市民生活を送るための「生活の知恵」であり,不可欠の教養でもある,といってよい.

 揺れ動く生きた経済現象を分析し,その特徴や問題点を解明するのは,もとより容易なことではない.本書は,内外の新聞・雑誌などから新しい現象や事実関係を採集し,そこに掲載された各種の調査・分析結果・論調も取り入れた.複雑化し,変転する経済現象とシステムをわかりやすく解き明かすには,日常的に誰もが目にする一般的な事実に依拠する必要があったからである.

 従来からの類書や研究書も参考にしたが,一般的なテキストとしての性格から,出典の詳細な紹介は省略し,巻末に,一括して参考文献として掲げることで感謝の印とし,お許しをもとめる所存である.

2005年11月

山田博文

目 次

はじめに 1

Prologueーー金融ビジネス最前線を探る 11

0−1現代金融ビジネスの最前線 12

0−1−1 ●1億ドルを瞬時に売買 12

0−1−2 ●24時間眠らないマーケット 14

0−1−3 ●時間と空間を突破するビジネス 15

0−2 20世紀末の問いかけ 16

0−2−1 ●各国経済危機を誘発した巨大マネー 17

0−2−2 ●投機マネーのターゲット 18

0−3 世界を揺るがす巨大マネー 20

0−3−1 ●巨大マネーの激流と「21世紀型危機」 20

0−3−2 ●リスクにさらされる金融機関 22

0−3−3 ●グローバル資本主義の限界 23

Tea time 1 一人の若者,女王陛下の銀行をつぶす 25

Part 1 現代の金融経済システム 26

Chapter 1 金融のプレーヤーとマネー 26

Chapter 1 ●ポイント&キーワード・チェック 27

1−1経済の発展とマネー 28

1−1−1 ●商品経済の発展とマネーの登場 28

1−1−2 ●マネーとその機能 29

1−1−3 ●現代日本のマネー 30

1−2金融機関の種類と役割 32

1−2−1 ●民間金融機関 33

1−2−2 ●郵便貯金と公的金融機関 34

1−2−3 ●中央銀行(日本銀行) 35

Tea time 2 川へ急げ,札が拾える 37

Chapter 2 銀行の基本業務と金融政策 38

Chapter 2 ●ポイント&キーワード・チェック 39

2−1銀行の基本業務?預金・貸出・信用創造・支払決済ー 40

2−1−1 ●預金の受入と貸出 40

2−1−2 ●信用創造(預金通貨の創出) 40

2−1−3 ●支払決済 42

2−1−4 ●その他の業務と証券業務 44

2−2日本銀行と金融政策 45

2−2−1 ●準備預金制度と金融政策 45

2−2−2 ●金融機関・金融市場の資金過不足要因 46

2−2−3 ●公定歩合・準備率・オペレーション 48

2−2−4 ●国庫制度と日銀信用供与 49

Tea time 3 銀行の窓口に山積みされた裏白のお札 51

Chapter 3 多様化し,膨張する証券市場 52

Chapter 3 ●ポイント&キーワード・チェック 53

3−1証券の発行・引受・売買 54

3−1−1 ●証券とは何かー株式と公社債? 54

3−1−2 ●証券会社の基本業務 55

3−1−3 ●証券取引所と店頭市場 56

3−2株式市場の構造と動態 58

3−2−1 ●株式発行市場 58

3−2−2 ●株式流通市場 58

3−2−3 ●株価と企業・銀行経営 60

3−3公社債市場の構造と動態 61

3−3−1 ●公社債発行条件の多様化 61

3−3−2 ●公社債流通市場の拡大 63

3−4投資信託と資産担保証券市場 64

3−4−1 ●活発化する証券投資信託 64

3−4−2 ●拡大する資産担保証券市場 65

Tea time 4 ホント?1億円株の出現!? 67

Chapter 4 サイバー空間・金融市場の解明 68

Chapter 4 ●ポイント&キーワード・チェック 69

4−1多様化する金融商品と利子 70

4−1−1 ●利子・配当・利回り 70

4−1−2 ●金利格差と金利裁定 71

4−1−3 ●金融商品・インカムゲイン・キャピタルゲイン 72

4−2膨張する金融市場 73

4−2−1 ●短期金融市場 73

4−2−2 ●長期金融市場 74

4−2−3 ●外国為替市場 76

4−2−4 ●金融派生商品(デリバティブ)市場 78

Tea time 5 相場下落でも利益のでるデリバティブ,但し・・ 80

Chapter 5 グローバル経済のフレームワーク 81

Chapter 5 ●ポイント&キーワード・チェック 82

5−1対外経済活動と国際収支 83

5−1−1 ●グローバル化する経済と金融 83

5−1−2 ●対外経済活動の鏡・国際収支 84

5−2急拡大する国際金融市場 86

5−2−1 ●拡大する国際金融取引の背景 86

5−2−2 ●金融派生商品市場とマネーセンターバンク 88

5−3ニューヨーク市場と基軸通貨ドル 89

5−3−1 ●主要国際金融市場 89

5−3−2 ●基軸通貨ドルとニューヨーク決済 90

5−3−3 ●不安定化する経済と拡大する経済格差 91

Tea time 6 平均年収13億円,7兆円の資産家 94

Part 2 現代日本の金融経済分析 95

Chapter 6 欧米の金融行政から学ぶ 96

Chapter 6 ●ポイント&キーワード・チェック 97

6−1不良債権対策の国際比較 98

6−1−1 ●欧米の不良債権対策と公的資金 98

6−1−2 ●日本の低金利政策と所得移転 99

6−2経済の安定化と銀行・証券会社 101

6−2−1 ●アメリカの「地域再投資法」と銀行 101

6−2−2 ●証券市場と証券監督機構(「SEC」) 102

6−3金融・証券行政と情報開示 103

6−3−1 ●金融行政と中央銀行の独立 103

6−3−2 ●情報開示と望ましい改革 105

Tea time 7 セーフティネット(安全網)はあるか? 108

Chapter7 現代日本の金融政策を読み解く 109

Chapter 7 ●ポイント&キーワード・チェック 110

7−1 不況の深刻化と日銀信用の膨張 111

7−1−1 ●不良債権処理と不況深刻化の悪循環 111

7−1ー2 ●日銀特別融資と公的資金の投入?膨らむ回収不能・焦げ付き 113

7−1−3 ●日銀信用の膨張と企業金融の支援 113

7−2 金融政策の歴史的転換と日銀信用の膨張 114

7−2−1 ●ゼロ金利政策の導入と官房長官発言 114

7−2−2 ●量的金融緩和政策の経済効果を検討する 116

7−2−3 ●低迷するマネーサプライと拡大する銀行の国債投資 118

7−3 日銀による銀行保有株の買入?中央銀行の「株価対策」? 120

7−3−1 ●株価変動リスクかかえる企業・銀行経営 120

7−3−2 ●銀行保有株の買入策の特徴 122

7−3−3 ●銀行保有株買入をめぐる内外の評価 124

Tea time 8 日本銀行の大失敗?国債の直接引受など 126

Chapter 8 金融のビッグバンとグローバル化 127

Chapter 8 ●ポイント&キーワード・チェック 128

8−1金融ビッグバンと「東京市場の再生」 129

8−1−1 ●金融ビッグバンと金融業務の再編成 129

8−1−2 ●証券ビジネスへのシフトとハイリスク・ハイリターン 130

8−1−3 ●イギリス・ビッグバンからの教訓 132

8−1−4 ●アメリカ系金融機関の対日進出 134

8−2金融持株会社と金融コングロマリットの成立 135

8−2−1 ●持株会社の傘下に入る銀行・証券・保険・信託 135

8−2−2 ●持株会社とコングロマリットの問題点 136

8−2−3 ●グローバルに展開するM&Aとリストラ 137

8−3金融ビジネスのグローバル化とマーケットの争奪戦 140

8−3−1 ●グローバ化する国家相手の証券ビジネス 140

8−3−2 ●アメリカの投資銀行とグローバル・マーケット 142

8−3−3 ●民営化株式の売出と国家・市民社会のあつれき 144

Tea time 9 個人金融資産=1200兆円と言うけれど 147

Chapter 9 財政赤字大国と膨張する国債市場 148

Chapter  9 ●ポイント&キーワード・チェック 149

9−1財政に支えられた戦後日本経済 150

9ー1−1 ●「企業国家」・「軍事国家」・「福祉国家」 150

9ー1−2 ●「財政赤字大国」と「1億総債務者」時代 151

9−2「第2の予算」・財政投融資と郵貯民営化 153

9ー2−1 ●「第2の予算」財政投融資 153

9ー2−2 ●年金積立金の自主運用と株式相場 155

9−3国債大量発行と戦後の金融市場 156

9ー3−1 ●国債大量発行と金融市場の変容 156

9−3−2 ●日銀信用依存とFB市場 158

9ー3−3 ●膨張する国債市場と増大するリスク 159

9ー4深刻化する国債の償還問題 161

9ー4−1 ●国債償還財源の調達とNTT株の発行 161

9−4−2 ●ハイパーインフレの歴史的事例 162

Tea time 10 6300キロの1万円札の束 164

Chapter  10 グローバル経済と円・ドル問題 165

Chapter  10 ●ポイント&キーワード・チェック 166

10ー1 経済のグローバル化と空洞化する国内産業・雇用 167

10ー1−1 ●加速化する本邦企業の対外進出 167

10ー1−2 ●生産拠点の海外移転と国内産業・雇用の空洞化 168

10−1−3 ●国民経済と多国籍企業との利害対立 170

10−2円高と日本経済 172

10−2−1 ●円高とは何か 172

10−2−2 ●円高不況と産業空洞化 173

10−2−3 ●円国際化と日米経済関係 175

10−3「対外資産大国」日本のジレンマ 177

10−3−1 ●ドル資産に依存する「資産大国」日本 177

10−3−2 ●悪循環からの脱出と国際社会との協調 180

Tea time 11 台頭する反グローバリズムとBRICs 183

Epilogueーーゆとり社会のセーフティネット 184

11−1ビッグバンと投資家・消費者保護 185

11−1−1 ●イギリスの「金融サービス法」と投資家保護 185

11−1−2 ●日本・遅れる金融トラブル対策 186

11−2消費者信用と「カード社会」 187

11−2−1 ●経済発展と消費者信用の拡大 187

11ー2ー2 ●「カード社会」の利便性と危険性 188

11−2−3 ●アメリカの多重債務者救済 190

11−3ゆとり社会の経済政策 190

11−3−1 ●福祉充実の経済効果 190

11−3−2 ●フランスの労働時間短縮 192

11−3?3 ●欧米の解雇規制 193

11ー4豊かでゆとりある経済社会へー先行する欧米の教訓? 194

Tea time 12 「生きる」「働く」「暮らす」 196

参考文献・URL紹介 197

あとがき 199

索 引 200

著者略歴 207

あとがき

 旧版以来の激動する金融経済の動態とシステムについて,はたしてどれだけポイントを解明できたか,それは,読者諸賢の判断をまつしかない.それにしても,目前に展開する生きた経済から,その核心部分を抽出し,平易なテキストとして編成することは,旧版同様,そう容易なことではなかった.
 今回も,インターネット利用,高機能化したパソコンソフトと愛機Macは,さまざまな作業を迅速かつ快適に処理してくれた.激動する金融経済は,引きつづき新しい事態と局面を切り開き,複雑なシステムを作りだしている.研究者としては,依然おもしろい時代ではある.
 だが,残念なこともある.旧版で指摘しておいた「豊かでゆとりある経済社会」を実現するための各種のシステム作りや政策展開については,依然,たいした進展がないからである.わが国よりも経済規模で小さいヨーロッパ諸国の方が,さまざまな生活関連指標において,「豊かでゆとりある経済社会」を実現している現状を見るにつけ,少子高齢社会日本にふさわしい本来の構造改革は,火急の課題と思われてならない.
 インターネットを利用して,読者諸賢から,忌憚のないご意見をいただきたいために,今回もわたくしのホームページとメールアドレスを掲げておいた.各自が社会に情報を発信し,自分の存在とニーズを企業や団体,行政にアピールすることが,よりよき未来の選択に結びつくにちがいない,と考えている.
 第2版の本書に,すてきなイラストが入ったのは,創造学園大学芸術学科漫画専攻の佐々木泰三君,楠大樹君,小野陽介君の協力である.3君に,まずお礼を言っておこう.
 国立大学法人になり,厳しくなる職場環境で,共に働く職場の同僚諸氏と,お世話になっている職員の方々にお礼を言いたい.
 最後に,出版事情の困難ななかで,本書第2版の出版を薦めてくれた大月書店に厚く御礼を申し上げる.

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