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HP New face 3.jpg99%.jpgようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

22. 経済社会の変化と金融経済教育  経済教育学会第22回全国大会報告要旨

はじめに

 コンピュータのグローバルなネットーワークの中をリアルタイムで移動する巨額の投機マネーが、各国の連鎖的な経済危機すら引き起こす時代になった。ポストビッグバンの経済社会で見えてきたのは、ハイリスク社会で翻弄させられる市民生活である。
 いま金融経済教育に問われているのは、マネーの効率的な自己増殖や株式ゲームの勝者になるノウハウを教育することではない。国民経済の安定と豊かな市民 生活を実現する視点から、改めて現代資本主義経済の特徴と問題点、マネーや金融産業のあり方、金融経済システムのあり方を解明し、教育することであろう。
 その際、「死んだ知識」を積み上げるのではなく、「生きた知識」を身につけ、経済のニュースが読み解けるように、経済社会の今を映し出す新聞記事を教育の場に活用することが有効である、と考える。

株式売買ゲームに参入する若者たち

 現代経済の金融化と情報化が進展し、パソコンをネットに接続するだけで、いつでも、どこでも、誰もがかんたんに、株式を売買できる時代になった。
 日本証券業協会によれば、インターネットを利用した株式取引の口座数は、ほぼ1000万口座に達している。株式委託売買高に占めるネットを利用した売買 高も、ほぼ3割におよんでいる。しかも、ネット利用の投資家の7割は個人投資家であり、この個人投資家の6割は、学生なども含む20~30歳台の若者たち によって占められている。
 かれらの多くは、株価のわずかな変動を捕らえて、1日のうちに何度となく株式の売買を繰り返すデイ・トレーダー(day trader)である。ネット証券サイドも、株式の売買手数料を引き下げたり、無料化するなど、株式の短期回転売買・株式投機の素地を拡大してきた。
 ここでは、売った買ったの株式ゲーム・マネーゲームが展開される。デイ・トレーダーたちにとって、株式売買は、個人の目前の利益追求(キャピタル・ゲイ ン)が目的であり、株式に投資した企業ではどのような経営がおこなわれているのか、情報開示や社会的責任(CSR)を果たしているのか、地球環境保全や人 類の平和に貢献するようなビジネスが行われているのか、といった認識はない。
 ネット証券評議会のアンケート調査によれば、ネット利用の株式投資家の投資キャリアは、1年未満の者が約30%、5年未満の者となると、約70%であり、近年のネット証券会社の誕生とともに、急速に株式市場に参加してきた若者たちであることがわかる。
 メディアの寵児的な存在であったライブドア株式への投資資金の内訳をみると、その25%は生活資金であり、余裕資金の割合は、40%にすぎなかった。ライブドア株の暴落は、生活苦に直結する事態が発生したことになる。

日本版「金融ビッグバン」とハイリスク社会の到来

 経済のグローバル化、情報化、金融化が急展開した現代経済の特徴は、BIS(国際決済銀行、2004年)によれば、世界中のモノの取引(貿易高)の 172倍にも達するカネの取引(外国為替の売買高)が行われるようになり、各国経済も、モノの裏付けのなく膨張し続ける不安定な「マネー経済」の影響を受 けるようになった。
 しかも、誤解を恐れず極論するなら、日本版「金融ビッグバン」とは、国民に対する金融経済教育やセーフティネットを置き去りにして、「銀行預金や郵便貯 金はもうやめて、株式・債券・投資信託にカネを回せ」といった、株価と証券ビジネス、高利回りと市場原理を最優先させるハイリスク・ハイリターン型のアン グロ・アメリカン的金融システムへの「大改革」であった。
 そのため、金融ビジネスの収益機会を拡大する規制緩和を推進したのに、それによって発生するリスクを防止する対策を放置し続けている結果、個人投資家、めぐりめぐって家計部門に、多大のリスクが転嫁され、生活破壊と自己破産件数も激増してきた。

金融経済教育の現状と課題

 ハイリスク時代に不可欠のはずの金融経済教育は、学校教育でも、社会人教育でも、きわめて貧弱である。一説に、アメリカ高校生の経済の教科書は20%を金融関連に割いているが、日本の場合は2%に過ぎず、しかも受験科目で「政経」は選択されにくい。
 他方、証券会社や金融関連業界による公開講座や学校教育の場への出前講義などは、基本的には、新しい顧客の開拓が目的なので、リスク社会において安全で自立した市民生活を営む賢い投資家・消費者を育成する、といった視点からみると、問題がある。
 また、日本銀行と金融広報中央委員会、金融庁、東京証券取引所などの公的団体の金融経済教育の取り組みは、今後、さらに充実され、教育機関でも時間を割 いて取り組んでいくことが必要と考えられるが、公的団体であるがゆえの限界もある。それは、大学や研究機関と違い、会社・業界・公的団体の動向、各種の経 営や政策について、固有名詞や金融犯罪などの具体的事例をあげた分析が行われていないし、「縦割り行政」のために、関係しない他省庁や行政政策についての 言及がなく、総合性・体系性に劣る、といった問題点も指摘されよう。

参考文献:山田博文『これならわかる金融経済(第2版)』大月書店、2005年12月。他に別添資料。


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