4 農業的土地利用の地域差


 以上の分析をふまえて、さらに主要な作物の耕作地、牧畜の地域差とその変化について検討する。

 第8図には、農地に占める小麦の面積率を示した。小麦に集中している地域はイングランド東部で、ケンブリッジシャー、リンカンシャー、エセックスが上位を占める。これらでは1966年には25%前後であったが、1981年には30%、1996年になると40%を超えるまでになっている。さらに小麦の核心地域は、ハンバーサイド、サフォーク、ノーサンプトンシャーなどに拡大し、その周辺の地域でも小麦の割合が上昇していることがわかる。

第8図 農地に占める小麦面積率の変化(1966年,1981年,1996年)

 第9図には、農地に占める大麦の面積率を示した。1966年で大麦に集中している地域は、ヨークシャー・イーストライディング、リンカンシャー、ノッティンガムシャー、ノーフォーク、サフォーク、ハンプシャーなどで、ヨークシャーからイングランド東南部に多い。1981年では、小麦よりも広い地域で作付けされており、スコットランド東部のファイフ、ハンバーサイド、ノッティンガムシャーなどが依然として30%以上であるが、全体として率が低下している。1996年になると、その傾向はさらに強まり、ファイフが20%を超えるのみである。1996年に大麦が10%以上の地域は、前述の小麦の核心地域に隣接しており、小麦の割合も比較的高い。


第9図 農地に占める大麦面積率の変化(1966年,1981年,1996年)

 近年著しく拡大したアブラナについては、第10図に示した。1966年当時は、家畜飼料用として統計に計上されており、ウェールズやスコットランド南部でやや高い。1981年では、ハンバーサイド、ノッティンガムシャー、ノーサンプトンシャー、ベッドフォードシャーで4%を超えた。1996年には、タイン・アンド・ウィア、ノーサンプトンシャー、ベッドフォードシャー、オックスフォードシャー、エセックスが7%以上となった。そして、スコットランドやイングランド北部での上昇も目立つ。アブラナの栽培は、冬作物の前作として集約的な穀物栽培のなかに組み込まれており、その地域もほぼ一致する(写真3)。

第10図 農地に占めるアブラナ面積率の変化(1966年,1981年,1996年)

 このように穀物栽培を中心とする地域は、イギリス東部に偏在している。穀物、とくに小麦の栽培を専業的に行う地域の拡大は、第一に共通農業政策の影響があるが、このほか輸入飼料の導入や肥料・農薬の投下によって、輪作の必要性が低下したこと、機械化の進展、品種の改良によるところが大きい。

 次に、草地(牧草地と放牧地の合計)が農地に占める割合をみたい。第11図によれば、85%以上となっているのは、スコットランド西部、イングランド北西部、ウェールズであり、起伏が比較的大きく、牧草の生育に十分な雨量のあるイギリスの西部に偏在している(写真1・2)。

 イングランドでは、1966年から1996年にかけて草地率が小さくなった地域がみられる。例えば、ノース・ヨークシャー周辺では70%以上から55%以上に、グロスターシャー周辺では55%以上から40%以上に、オックスフォードシャー周辺では40%以上から25%以上に、リンカンシャー周辺では25%以上から25%未満にというようにそれぞれ率が低下している。もっとも率の低い地域は、イングランド東部である。

第11図 農地に占める草地率の変化(1966年,1996年)

 以上のように、耕作地の卓越する東部、牧草地の卓越する西部というパターンがイギリスでは明瞭にみられる。さらに、有畜混合農業からの専業化が進み、東部の低地を中心に大規模穀物農業の展開される地域と北部・西部の丘陵地において牧畜の行われている地域という差がより明確になってきている。
 それでは、豚・牛・羊の単位面積当たりの密度を指標に、牧畜の地域差をみたい。まず、豚の分布をみると、第12図のように、1966年にはグレーターロンドンとサフォークで高いことがわかる。1996年になると、ランカシャー、コーンウォルやイングランド南東部の密度が下がり、ノーフォークとサフォーク、ヨークシャーとハンバーサイドに高い地域が移動している。これらは、都市に近く、飼料の得やすい穀物栽培地域と結びついて発達している(写真4)。

第12図 農地100ha当たりの豚頭数の変化(1966年,1996年)

 次に、第13図で牛の分布をみると、1966年にはチェシャーをはじめとするイングランド西部で高いことがわかる。また、スコットランド南部、ウェールズ南部でも比較的高い。1996年になると、スコットランド南西部、チェシャー、スタッフォードシャー、サマセット、コーンウォルなどのイングランド西部と南西部、そしてウェールズ南西部で高くなっている(写真5)。これらは、牧草地が卓越し、農地所有規模の小さな地域である。ただし、酪農は農産物生産のなかで重要な地位を占め、飼養規模の拡大も著しい。

第13図 農地100ha当たりの牛頭数の変化(1966年,1996年)

 最後に、第14図で羊の分布をみたい。羊は頭数が大きく伸びたため、30年間で密度の高い地域が広がっている。1966年には、スコットランド南部、イングランド北西部、ウェールズが 200頭以上の密度の地域となっている。1996年になると、これらの地域の密度が500頭以上となり、さらにイングランド北東部や南西部でも高くなっている。これらの地域は、補助金が支給されている条件不利地域とほぼ一致する。集約的に飼養されているのは、約1060頭のポーイス、約820頭のノースイースト・ウェールズである。それに対して、羊の飼養を中心としながらも粗放的なのは、スコットランドのハイランドで、約77頭である。

第14図 農地100ha当たりの羊頭数の変化(1966年,1996年)

 このように、耕種農業と牧畜の分化だけでなく、豚、牛、羊の飼養についても地域的な分化が進んでいるといえる。


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